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「クリスマス」
楽しい夜になる筈だった。子供たちが家を出てから、一家が揃うのは、盆と正月、それに、クリスマスの夜くらいのもの。
妻は、お手製のスモークチキンにサラダを作り、年に一度のシャンパンを買って、その日に備えた。
男も、自分が幼い頃には経験しなかったクリスマスだが、こうして家族が集うのなら、キリスト教徒でも何でもないが、忘年会でもやるつもりでやればいいと、心待ちにしていた。
子供たちは、夕がた近くになって帰宅し、料理も揃った頃に、突然の電話。
男は、「いいよ、どうせ、どこかの勧誘の電話だろう。クリスマス・イブだと言うのにご苦労なことだ」と言いながら電話をとった。
受話器から聞こえてきたのは、聴きなれぬ男性の言葉。
「私、○○さんの主任教授で●●と申しますが、○○さんはお宅にいらっしゃいますか?」と妙なことを尋ねる。
その時、娘は着替えに上がっていたが、男は先方の名前から、娘が通う大学の教授だと分かった。
言葉を改めて、「どういったご用件でしょうか?」と尋ねると、先方は、一瞬言葉を濁したが、「やはり、ご両親には伝わっていなかったのですね。実は、お嬢さん、この半年ばかり、まったく研究室にこないので、心配しているのですよ。このままだと卒業できなくなりますし、こんな日にお電話するのもどうかと思いましたが、私も放っておけないので、お電話させて頂きました」との話。
ようやく、男にも事情がつかめた。娘の様子がおかしいと思っていたら、不登校になっていたというか、心を病んでいたのだ。
結局、その夜は、クリスマスどころではなくなった。
後日談:この件は年越しの案件となり、結局、娘は学校を中退することになった。ここまでしか書けない。辛い思い出だ。その傷がいえたのは、つい最近のこと。
先日、娘とデートした。しかし、クリスマスの頃になると、ふと未だに男は思い出す。人間、生きて行くのは大変なことだと思う。
そんな時代もあったねと、笑い飛ばせる日が来てくれてよかった、よかった。
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